出産・育児でもらえるお金——健康保険と雇用保険の給付金ガイド
出産や育児は、喜びと同時に収入の変化をともなう大きなライフイベントです。健康保険と雇用保険には、産前産後から育休中・復職後まで、複数の給付金が用意されています。本記事では、受け取れる主な給付金を時系列に沿って整理し、対象者・どの保険から支給されるか・申請先・申請時期のポイントを解説します。具体的な支給額の計算は、各給付の計算ツールをご利用ください。
本記事は2026年6月時点の制度にもとづき、厚生労働省・全国健康保険協会(協会けんぽ)・ハローワークなどの一次資料で確認して作成しています。毎年改定される上限額などの最新の金額は、各計算ツールでご確認ください。
出産前(産前42日〜)
産前産後休業中の所得補償 → 出産手当金(健康保険・給与の約2/3)
出産時
出産費用の補助 → 出産育児一時金(健康保険・1児50万円)
産後休業〜育児休業(原則1歳まで)
育休中の所得補償 → 育児休業給付金(雇用保険・67%、181日目以降50%)/父が産後8週以内にとる場合は出生時育児休業給付金(産後パパ育休)
職場復帰後(時短勤務)
時短で賃金が下がったとき → 育児時短就業給付金(雇用保険)
給付の全体像——時系列で見る
出産・育児に関係する主な給付を、受け取るタイミング別にまとめると次のようになります。
| タイミング | 給付名 | 根拠保険 |
|---|---|---|
| 出産時 | 出産育児一時金 | 健康保険 |
| 産前産後の休業中 | 出産手当金 | 健康保険 |
| 育児休業中(本人) | 育児休業給付金 | 雇用保険 |
| 子の出生後8週以内 | 出生時育児休業給付金(産後パパ育休) | 雇用保険 |
| 両親ともに育休取得時(上乗せ) | 出生後休業支援給付金 | 雇用保険 |
| 育休復帰後・時短勤務中 | 育児時短就業給付金 | 雇用保険 |
健康保険の給付は、在職中の会社員・公務員などが加入する公的医療保険(協会けんぽや健康保険組合)から支給されます。雇用保険の給付は、雇用保険の被保険者(週20時間以上・31日以上の雇用見込みが要件)であれば、正社員・パートを問わず対象です。
妊娠中〜出産直後の給付(健康保険)
出産育児一時金
健康保険の被保険者(会社員本人)または被扶養者(配偶者)が出産した場合に支給される一時金です。妊娠週数が12週(85日)以上の出産が対象で、死産・流産も含まれます。国民健康保険の加入者にも同様の制度(出産育児一時金)があります。
対象者:健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)または国民健康保険の被保険者・被扶養者
申請先:加入している健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)・国民健康保険は市区町村
申請時期:出産後。多くの場合「直接支払制度」または「受取代理制度」により医療機関が代理請求するため、本人申請が不要なケースも多い
非課税:はい
直接支払制度・受取代理制度を利用すると、医療機関が健康保険に直接請求するため、窓口での支払いは差額分のみになります。一時金が出産費用を上回った場合は差額を受け取ります。利用しない場合は、本人が出産後に健康保険へ申請します(申請期限は出産翌日から2年以内)。
出産育児一時金を計算する →出産手当金
健康保険の被保険者(会社員本人)が産前産後の休業を取得した場合に、休業中の所得を補償する給付です。被扶養者(配偶者)は対象外です。支給額は標準報酬日額をもとに算出され、産前産後の休業日数分が支給されます。
対象者:健康保険の被保険者(勤務先の健康保険に加入している会社員等)が産休を取得した場合
支給期間:産前42日(多胎の場合は98日)+産後56日。実際の出産日が予定日と異なる場合も、それぞれの起算日が変わります
申請先:加入している健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)
申請時期:産前・産後を通じて申請(産後にまとめて申請、または産前分を先に申請する方法がある)。時効は権利が生じた日の翌日から2年
非課税:はい
出産手当金と出産育児一時金は目的が異なる別給付のため、要件を満たせば同時に受け取ることができます。育児休業給付金(雇用保険)とは保険が異なりますが、産後56日を過ぎて育休に移行した後は出産手当金ではなく育児休業給付金の対象になります。
出産手当金を計算する →産後・育児休業中の給付(雇用保険)
以下の給付はいずれも雇用保険の給付です。雇用保険の被保険者(週20時間以上勤務・31日以上の雇用見込みがあること)であれば、正社員・パート・契約社員を問わず対象になります。申請は原則としてハローワーク(勤務先経由)です。
育児休業給付金
雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に支給される給付です。子を養育するために仕事を休む期間の所得を補償します。育休開始前の賃金をもとに支給額が算出されます。育休開始から一定の日数は高い給付率、それ以降は低い給付率での支給です(具体的な給付率・上限額は毎年見直しの対象になるため、計算ツールで確認してください)。
対象者:雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合。有期雇用の方は「子が1歳6ヶ月になるまで雇用継続の見込みがあること」等の追加要件あり
支給期間:子が原則1歳になるまで。保育所が見つからない等の事情があれば最大2歳まで延長可(「育休延長」)
申請先・タイミング:ハローワーク(事業主を経由)。育休開始から1〜2ヶ月後に初回申請、以後2ヶ月ごとに支給認定
社会保険料:育休中は申請により健康保険・厚生年金保険料が免除(資格・年金記録は継続)
非課税:はい
出生時育児休業給付金(産後パパ育休)
2022年10月に創設された給付です。育児・介護休業法の「出生時育児休業(産後パパ育休)」を取得した場合に支給されます。子の出生後8週以内に最大28日(4週間)取得でき、分割して2回まで取得することも可能です。主に父親(出産した本人以外)が取得する制度で、出産した本人は同じ期間が産後休業(出産手当金の対象)となるため対象外です。女性が利用できるのは養子を迎えた場合など産後休業に該当しないケースに限られます。
対象者:雇用保険の被保険者が出生時育児休業(産後パパ育休)を取得した場合
取得可能期間:子の出生後8週以内に最大28日(4週間)。2回に分割取得が可能
就業:労使協定がある場合、条件付きで育休中の就業が認められる
申請先:ハローワーク(事業主を経由)。産後パパ育休終了後に申請
非課税:はい。育休中と同様に社会保険料免除の対象
出生後休業支援給付金(育児休業給付への上乗せ)
2025年4月に新設された給付で、育児休業給付金または出生時育児休業給付金に上乗せして支給されます。本人と配偶者がともに一定の期間・要件を満たす育休(産後パパ育休を含む)を取得した場合に適用されます。上乗せ後の実質的な給付率は高まりますが、取得状況によって率が変わります。具体的な上乗せ率は各計算ツールの解説をご確認ください。
対象:育児休業給付金・出生時育児休業給付金の受給者のうち、配偶者もともに一定の育休を取得した場合
申請先:ハローワーク(事業主を経由)。育児休業給付金・出生時育児休業給付金の申請と同時期に行う
非課税:はい
育休復帰後・時短勤務中の給付(雇用保険)
育児時短就業給付金
2025年4月に新設された給付です。育休から復帰した後に時短勤務をしている期間中に支給されます。時短勤務中の賃金と育休開始前の賃金の差額を一定割合で補填する仕組みで、フルタイム復帰が難しい場合でも収入を一定程度補います。
対象者:雇用保険の被保険者が育休終了後に時短勤務(所定労働時間を短縮した勤務)をしており、子が2歳になるまでの期間
申請先:ハローワーク(事業主を経由)。2ヶ月ごとに申請
非課税:はい
ケースで見る:標準報酬月額24万円の会社員が出産・育休をとった場合(無給の概算)
健康保険・雇用保険にいずれも1年以上加入しているCさん(標準報酬月額24万円・賃金日額8,000円)が、単胎を出産予定日どおりに出産し、産休・育休中は無給だったケースです。
- 出産育児一時金(健康保険):1児につき50万円(産科医療補償制度の対象出産)
- 出産手当金(健康保険):標準報酬日額 8,000円 × 2/3 = 5,333円/日 × 対象98日(産前42+産後56)= 約522,634円
- 育児休業給付金(雇用保険):賃金日額8,000円なら、育休開始〜180日目は 8,000×67%=5,360円/日、181日目以降は 8,000×50%=4,000円/日(総額は取得期間で変わります)
※ 出産手当金は健康保険、育児休業給付金は雇用保険と、根拠となる保険・計算の基礎が異なります。標準報酬月額・賃金日額には上限/下限があり、夫婦それぞれが育休をとると育児休業給付に出生後休業支援給付金(+13%)が上乗せされる場合があります。最新の上限額や自分の数字での試算は各計算ツールをご利用ください。
間違えやすいポイント
出産・育児の給付は種類が多く、混同されやすい点を整理します。
- 誤解① 出産育児一時金と出産手当金は同じもの
- 正しくは:別の給付です。出産育児一時金は出産費用の補助(定額・1児50万円)、出産手当金は産前産後休業中の所得補償(標準報酬日額の約2/3)です。会社員本人なら両方を受け取れます。
- 誤解② 出産手当金は専業主婦(扶養に入っている配偶者)でももらえる
- 正しくは:出産手当金は健康保険の被保険者本人のみが対象です。被扶養者は対象外で、出産費用の補助は「家族出産育児一時金」として支給されます。
- 誤解③ 育児休業給付金はずっと給与の67%
- 正しくは:67%は育休開始から180日目までです。181日目以降は50%に下がります。
- 誤解④ 産後パパ育休(出生時育児休業給付金)をとると通常の育児休業給付金はもらえない
- 正しくは:別枠です。産後パパ育休のあとに通常の育児休業給付金も取得できます(賃金の算定を引き継ぎます)。
よくある質問
- Q. 出産育児一時金と出産手当金は同時にもらえますか?
- A. はい、両方を受け取ることができます。出産育児一時金は出産費用の補填を目的とした給付、出産手当金は産前産後休業中の所得補償を目的とした給付で、目的が異なる別々の制度です。それぞれの要件を満たせば、同時に受け取ることが可能です。
- Q. 育休中の健康保険・厚生年金の保険料はどうなりますか?
- A. 育休中(産後パパ育休中を含む)は、事業主が年金事務所または健康保険組合に申請することで、健康保険と厚生年金保険の保険料が免除されます。免除中も社会保険の資格は継続されます。2022年10月の改正により、月末日に育休中の月に加え、月内に14日以上育休を取得した月についても月単位の保険料が免除される仕組みが設けられています。
- Q. パートや有期契約社員でも育児休業給付金はもらえますか?
- A. 雇用保険の被保険者(週20時間以上・31日以上の雇用見込みが要件)であれば、雇用形態を問わず対象になります。ただし有期雇用の方は「子が1歳6ヶ月になるまで雇用契約が継続される見込みがあること」などの追加要件があります。詳しくは勤務先または最寄りのハローワークにご確認ください。
- Q. 育休中に就業した場合、給付金は減額されますか?
- A. 育休中に就業した場合、就業した時間数や得た賃金によって支給額が調整または支給停止になることがあります。産後パパ育休は、労使協定がある場合に条件付きで就業が認められる仕組みが設けられています。育休中に就業する場合は、事前に勤務先またはハローワークに確認することをお勧めします。
出典・参照情報
本記事は以下の公式情報をもとに作成しています。法改正により制度内容が変わる場合があります。最新情報は各機関の公式ページでご確認ください。
- 厚生労働省「出産育児一時金について」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「出産したとき(被保険者)」「出産したとき(被扶養者)」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「出産手当金について」
- 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
- 厚生労働省「出生時育児休業給付金について(産後パパ育休)」
- 厚生労働省「育児時短就業給付について」(2025年4月施行)
- 厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
免責事項
本記事は各制度の一般的な概要を説明することを目的とした参考情報です。個別の支給可否・支給額を保証するものではありません。実際の支給は個人の状況と、加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)・ハローワーク・年金事務所などの審査により決定されます。最終的な確認は公式窓口でお願いします。制度は法改正により変更されることがあります。