医療費が高額になったときに自己負担を抑える制度(と使う順番)
入院や高額な治療で医療費が膨らむとき、自己負担を抑えたり取り戻したりできる公的な制度は複数あります。ただし、使い方にはそれぞれ「いつ・どの窓口に・どの順番で」という違いがあります。本記事では「医療費のコスト側」の制度を、使う順番とともに整理します。病気・ケガで働けないときの収入面(傷病手当金・労災)については別のガイドをご覧ください。
使う順番の全体像
- ①高額になりそうなら事前に——限度額適用認定証(またはマイナ保険証)で窓口支払いを最初から限度額までに
- ②月ごとに——高額療養費で自己負担を限度額まで軽減(事後払い戻しも可)
- ③負担が続くなら——多数回該当・世帯合算・外来年間上限でさらに軽減
- ④介護も重なる年は——高額医療・高額介護合算療養費(年間・8月〜翌7月)
- ⑤年間の医療費がかさむなら——医療費控除(確定申告で税を取り戻す)
- ⑥働けず収入も減るなら——傷病手当金・労災の休業補償給付(収入面の制度)
①〜⑤の制度はそれぞれ独立しており、要件を満たせば組み合わせて利用できます。ただし②〜③は「月単位」、④は「年単位(8月〜翌7月)」、⑤は「暦年(1月〜12月)」と集計期間が異なる点に注意が必要です。
① 限度額適用認定証——窓口支払いを最初から限度額まで抑える事前手続き
何のための手続き?
高額療養費の「事前版」。1か月の窓口支払いを最初から自己負担限度額以内に抑える
どの場面で?
入院や高額な治療が前もって見込まれるとき
申請先
加入先の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険)
高額な入院や治療が前もって分かっているとき、加入先の健康保険に申請して「限度額適用認定証」を取得し、医療機関の窓口に提示すると、1か月の窓口支払いが最初から自己負担限度額以内になります。
マイナ保険証を利用する場合は、医療機関での提示によって同様の取り扱いが受けられ、事前に認定証を申請しなくても済む場合があります。
認定証がなくても後から高額療養費として払い戻しを受けることはできますが、いったん全額を窓口で支払う必要があります。高額な治療が見込まれるときは事前取得をお勧めします。
② 高額療養費——月ごとの自己負担を限度額まで軽減する健康保険の給付
何のための給付?
1か月(月初〜月末)の医療費の自己負担が自己負担限度額を超えた分の払い戻し
どの場面で?
1か月の自己負担が限度額を超えたとき(月をまたぐと別計算)
申請先
加入先の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険)
1か月の医療費の自己負担が自己負担限度額を超えた分が、加入する健康保険から払い戻されます。自己負担限度額は年齢と所得区分によって異なり、毎年8月に改定されます。具体的な限度額の計算は高額療養費計算ツールでご確認ください。
対象外の費用に注意
高額療養費の対象は保険適用の医療費のみです。差額ベッド代・入院時の食事療養費・保険適用外の自由診療費などは対象外となります。これらは医療費控除の対象になる場合があります(⑤参照)。
③ 高額療養費をさらに軽くする3つの仕組み
高額療養費には、負担が続く場合や家族の費用がかさむ場合に限度額をさらに引き下げる仕組みが用意されています。
多数回該当——4回目以降は限度額がさらに下がる
直近12か月間に高額療養費の支給が3回以上あった場合、4回目以降の1か月の自己負担限度額がさらに引き下げられます。同一の病気・ケガである必要はなく、12か月間の累積回数で判定します。具体的な引き下げ後の限度額は高額療養費計算ツールでご確認ください。
世帯合算——同じ医療保険の家族の自己負担を合算できる
同一世帯で同じ医療保険に加入する家族が複数の医療費を支払った場合、それぞれの自己負担を合算して限度額を適用できます。70歳未満の方については、1か月・1医療機関ごとに21,000円以上の自己負担が合算の対象となります(21,000円未満は合算できません)。具体的な適用は高額療養費計算ツールでご確認いただくか、加入先の健康保険にお問い合わせください。
外来年間上限——70歳以上の一定区分で外来に年間の上限
70歳以上の方の一定の所得区分では、外来診療の自己負担に年間(8月〜翌年7月)の上限額が設けられています。この上限を超えた分も払い戻しの対象となります。具体的な上限額は加入先の健康保険にお問い合わせください。
④ 高額医療・高額介護合算療養費——医療と介護が重なる世帯向けの年間制度
何のための給付?
1年間(8月1日〜翌年7月31日)の医療保険+介護保険の自己負担を世帯で合算し、限度額を超えた分を支給
どの場面で?
医療費と介護費の両方がかさむ世帯(医療と介護の両方で自己負担がある場合)
申請先
基準日(7月31日)時点で加入する医療保険者(健康保険組合・協会けんぽ・国保など)
高額医療・高額介護合算療養費制度(2008年4月創設)は、同一世帯(医療保険上の世帯単位)で医療保険と介護保険の両方に自己負担がある場合に、1年間分(毎年8月1日〜翌年7月31日)の自己負担を合算して限度額(基準額)を超えた分が支給される制度です。
高額療養費との違いに注意
- 高額療養費は1か月単位・医療費のみが対象
- 合算療養費は1年単位(8月〜翌7月)・医療+介護の世帯合算が対象
- 高額療養費・高額介護サービス費で既に払い戻された分、食費・居住費・差額ベッド代は対象外
- 70歳未満は1か月・1医療機関ごとに21,000円以上の自己負担が合算の対象
合算療養費の限度額(基準額)は年齢・所得区分によって細かく異なるため、具体的な金額は基準日(毎年7月31日)時点で加入する医療保険者(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険)にお問い合わせください。
⑤ 医療費控除——1年分の医療費を確定申告で税として取り戻す
何のための控除?
1年間(1月1日〜12月31日)の医療費(保険外含む)をもとに所得税を還付・住民税を軽減
どの場面で?
年間の医療費が高額になったとき(生計を一にする家族の分も合算可)
手続き先
税務署に確定申告(年末調整では受けられない)
医療費控除は健康保険の給付ではなく、所得税の控除です。1年間(1月〜12月)に支払った医療費(高額療養費などで補填された分を差し引いた後)が一定額を超えると、確定申告により所得税の一部が還付され、翌年の住民税も軽減されます。
高額療養費との大きな違いは、集計が暦年(1月〜12月)単位である点と、保険適用外の医療費や通院交通費なども対象になる点です。また、高額療養費で払い戻された分は「補填される金額」として差し引く必要があります。
⑥ 働けず収入も減るとき——収入面の制度(傷病手当金・労災)
本記事で紹介した①〜⑤はいずれも「医療費のコスト」を抑える制度です。病気・ケガで仕事を休んで給与が減る場合は、別に「収入を補う制度」も使えます。
傷病手当金(業務外の病気・ケガ)
健康保険の被保険者が業務外の病気・ケガで働けないとき、連続3日間休んだ後の4日目から支給される給与補填的な給付。申請先は加入先の健康保険。
労災の休業(補償)給付(業務上・通勤途上)
業務上または通勤途上の病気・ケガで働けないとき、労災保険から支給される給付。申請先は労働基準監督署。
よくある質問
Q. 医療費が高額になったとき、まず何をすればいいですか?
A. 入院・高額な治療が前もって分かっている場合は、加入先の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険)に「限度額適用認定証」を申請しておくと、窓口での支払いを最初から自己負担限度額以内に抑えられます。マイナ保険証を利用する場合は、医療機関での提示により同様の取り扱いとなり、事前申請が不要になることがあります。予期せず高額になってしまった場合は、事後に高額療養費の払い戻しを申請することもできます。
Q. 高額療養費を使っても負担がまだ重いときはどうすればいいですか?
A. 高額療養費には自己負担をさらに軽くする仕組みが3つあります。①多数回該当:直近12か月で高額療養費の支給が3回以上ある場合、4回目以降は限度額がさらに引き下げられます。②世帯合算:同一世帯で同じ医療保険に加入する家族の自己負担を合算して限度額を適用できます(70歳未満は1か月・1医療機関あたり21,000円以上の自己負担が合算対象)。③外来年間上限:70歳以上の一定区分などで、外来の自己負担に年間の上限が設けられています。また、介護保険の自己負担も重なる年は「高額医療・高額介護合算療養費」を、年間の医療費が高額になる場合は「医療費控除」(確定申告)も使えます。
Q. 高額療養費と高額医療・高額介護合算療養費は何が違いますか?
A. 高額療養費は1か月(月初〜月末)の医療費の自己負担を対象とした健康保険の給付です。一方、高額医療・高額介護合算療養費は1年間(毎年8月1日〜翌年7月31日)に支払った医療保険と介護保険の自己負担を世帯で合算し、限度額を超えた分を支給する制度です。期間も合算する対象もまったく異なる別の制度で、どちらも利用できる場合は両方申請できます。合算療養費の限度額(基準額)は年齢・所得によって異なるため、加入先の医療保険者にお問い合わせください。
Q. 高額療養費と医療費控除はどちらを使えばいいですか?
A. どちらか一方ではなく、両方使えます。一般的な順序は、まず月ごとに高額療養費で自己負担を限度額まで抑え、それでも年間の医療費が高額になる場合は翌年に医療費控除を確定申告する、という流れです。ただし、医療費控除の計算では高額療養費として払い戻された金額を「補填される金額」として差し引く必要があります。詳しい計算方法や併用の注意点は「高額療養費と医療費控除の違い(と併用)」の記事をご覧ください。
出典・参考
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- 厚生労働省「高額医療・高額介護合算療養費制度について」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「高額療養費」
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
免責事項
本記事は一般的な制度の概要をわかりやすく説明することを目的としており、個別の支給可否・支給額・限度額を保証するものではありません。高額療養費・合算療養費の具体的な限度額や申請方法は加入先の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険)にご確認ください。医療費控除に関する税務上の判断(対象となる医療費の範囲・控除額・申告方法)は税務署または税理士にご相談ください。制度の詳細・限度額・申請手続きは改正により変わる場合があるため、最新の情報は厚生労働省・国税庁・各保険者の窓口でご確認ください。