¥社会保険・給付金の計算ツール集ガイド

病気・ケガで働けないときのお金——傷病手当金と労災給付のガイド

病気やケガで仕事を休まなければならなくなったとき、収入の減少を補う制度として「傷病手当金」と「労災の休業(補償)給付」があります。どちらを使えるかは、その病気・ケガが業務外か業務上・通勤途中かで決まります。本記事では、2つの制度の仕組みと違いを整理し、対象者・給付率・待期・申請先のポイントを解説します。具体的な支給額の計算は各給付の計算ツールをご利用ください。

本記事は2026年6月時点の制度にもとづき、協会けんぽ・厚生労働省などの一次資料で確認して作成しています。毎年改定される上限額などの最新の金額は、各計算ツールでご確認ください。

まず確認——業務外か、業務上・通勤中かで制度が変わる

病気やケガで働けないとき、適用される制度は「原因が業務(仕事)に関係するかどうか」で異なります。

病気・ケガの原因主な給付根拠保険申請先
業務外(私傷病)傷病手当金健康保険協会けんぽ・健康保険組合
業務上(業務災害)休業補償給付+休業特別支給金労災保険労働基準監督署
通勤途中(通勤災害)休業給付+休業特別支給金労災保険労働基準監督署
複数の仕事のどちらかが原因複数事業労働者休業給付+休業特別支給金労災保険労働基準監督署

業務上・通勤途上のケガや病気には労災保険が優先されます。同一の事由について健康保険(傷病手当金)と労災保険の両方を同時に受け取ることはできません。

ひと目でわかる判断フロー

病気・ケガで働けず、収入が減る

↓ 原因で使える制度が変わる

仕事中のケガ・病気〔業務災害〕

労災休業補償給付+休業特別支給金

→ 労働基準監督署

通勤中〔通勤災害〕

労災休業給付+休業特別支給金〔初回一部負担金200円〕

→ 労働基準監督署

仕事と無関係〔私傷病〕

健康保険被保険者 → 傷病手当金

被扶養者・国保のみ → 対象外

→ 協会けんぽ・健保組合

業務外の病気・ケガのとき——傷病手当金(健康保険)

健康保険の被保険者(会社員・公務員など)が、業務外の病気やケガで働けなくなった場合に支給される給付です。風邪・骨折・精神疾患など、業務に直接関係しない私傷病が対象です。

対象者と支給条件

対象者:健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の被保険者。被扶養者(家族)は対象外

病気・ケガの種類:業務外の私傷病(精神疾患・骨折・感染症など業種・職務と無関係なもの)

就労不能の確認:医師の意見書(療養担当者の意見)が必要

非課税:はい

待期・支給期間・給付率

待期:連続して3日間就労不能の状態にあること(有給休暇・公休日を含む)。4日目から支給対象

給付率:1日あたり標準報酬日額(直近12ヶ月の標準報酬月額の平均÷30)の2/3

支給期間:支給開始日から通算1年6ヶ月。就労可能な期間はカウントされないため、途中で復職しても残りの期間で再受給できる(2022年1月の改正で「継続」から「通算」に変更)

申請先と手続き

勤務先の事業主と担当医師(療養担当者)に所定欄への記入を依頼し、加入している健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)に申請します。通常は1〜2ヶ月ごとにまとめて申請する方法が一般的です。時効は受給権が生じた日の翌日から2年のため、早めの申請を心がけてください。

退職後の継続給付

次の要件をすべて満たす場合、退職後も「資格喪失後の継続給付」として受給を続けることができます。

  • 退職日時点で健康保険の被保険者期間が継続1年以上あること
  • 退職日に傷病手当金を受給中または受給できる状態(就労不能)にあること
  • 退職後に就労していないこと

退職後に任意継続被保険者になる必要はありません。元加入していた健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に直接申請します。

試算例:標準報酬月額30万円の会社員が60日休んだ場合(全期間無給の概算)

  • 標準報酬日額:300,000 ÷ 30 = 10,000円
  • 傷病手当金日額:10,000 × 2/3 ≒ 6,667円
  • 支給対象日数:60日 − 待期3日 = 57日
  • 概算受給額:6,667 × 57 = 約380,019円

※ 標準報酬月額に上限・下限あり。加入1年未満の場合は別途特例あり。詳細は計算ツールをご確認ください。

傷病手当金を計算する →

業務上・通勤途中のケガ・病気のとき——労災の休業(補償)給付

労災保険は、業務中または通勤途中のケガや病気で働けなくなった労働者に対して補償します。正社員・パート・アルバイト・日雇を問わず、1人でも労働者を雇用している事業所は強制加入のため、すべての労働者が対象です。保険料は全額が事業主負担です。

給付の種類と対象

業務災害:業務中のケガや業務が原因の病気。「休業補償給付」(保険給付)+「休業特別支給金」(特別支給金)が支給されます。

通勤災害:自宅と職場の往復途中のケガや病気。「休業給付」(保険給付)+「休業特別支給金」が支給されます。初回の支給から一部負担金(200円。日雇労働者は100円)が控除されます(業務災害は一部負担金なし)。

複数業務要因災害:複数の事業場での業務を合わせて評価することで認定される災害。「複数事業労働者休業給付」+「休業特別支給金」が支給されます。

待期・給付率・支給期間

待期:療養のため3日間就労不能の状態が続いた後、4日目から支給。業務災害の待期3日間は事業主が労働基準法に基づき平均賃金の60%相当を補償(通勤災害の待期中は事業主補償義務なし)

給付率:給付基礎日額(算定事由発生日前3ヶ月の賃金合計÷暦日数)の60%(休業補償給付・休業給付)+給付基礎日額の20%(休業特別支給金)=合計80%相当

支給期間:就労不能の状態が続く限り、原則として期間の上限なし(長期化した場合は傷病(補償)等年金に移行することがある)

非課税:はい(保険給付・特別支給金ともに非課税)

申請先と手続き

所轄の労働基準監督署に申請します。療養を受けている医療機関(労災指定医療機関かどうかで様式が異なります)や勤務先に協力を依頼しながら手続きを進めます。労災であることが疑われる場合は、健康保険証は使わずに労災として申請することが重要です。

退職後の給付

労災保険の給付は在職の要件がないため、退職後も業務上または通勤途中の傷病により就労不能の状態が続く限り、要件を満たしている間は受給を継続できます。

試算例:給付基礎日額8,000円・業務災害で30日休んだ場合(全期間無給の概算)

  • 休業補償給付:8,000 × 60% = 4,800円/日
  • 休業特別支給金:8,000 × 20% = 1,600円/日
  • 支給対象日数:30日 − 待期3日 = 27日
  • 休業補償給付計:4,800 × 27 = 129,600円
  • 休業特別支給金計:1,600 × 27 = 43,200円
  • 概算合計:129,600 + 43,200 = 合計172,800円

※ 業務災害は一部負担金控除なし(通勤災害は初回200円)。詳細は計算ツールをご確認ください。

労災の休業補償給付を計算する →

障害が長期に残ったとき

病気やケガが治癒または症状固定した後、障害が残った場合は休業給付とは別の給付制度があります。原因(業務外か業務上かで制度が変わる点は休業中と同様):

業務外の障害——障害年金(国民年金・厚生年金保険)

初診日に国民年金・厚生年金保険に加入しており、一定の障害等級に該当する場合に支給されます。障害基礎年金(1・2級)は国民年金から、障害厚生年金(1・2・3級)は厚生年金保険から支給されます。障害の等級・保険料納付要件などの詳細は年金事務所または市区町村(障害基礎年金)にご確認ください。

業務上・通勤途中の障害——障害(補償)等給付(労災保険)

症状固定後に障害等級に該当する場合、障害補償給付(業務災害)または障害給付(通勤災害)が支給されます。等級に応じて年金または一時金として支給されます。詳細は所轄の労働基準監督署にご確認ください。

障害等級・支給額は毎年改定の対象となる項目があるため、最新の情報は各公式窓口でご確認ください。

あわせて——医療費が高額になったとき(高額療養費)

病気やケガでは休業中の収入減少だけでなく、医療費の負担増も問題になります。健康保険には、同一月の医療費の自己負担が一定の限度額を超えた場合に超過分が払い戻される「高額療養費」制度があります。傷病手当金(所得補償)とは異なる制度ですが、長期療養中には特に重要です。

なお、労災認定を受けた場合の医療費は療養(補償)等給付として全額労災保険から支払われるため、健康保険の高額療養費とは適用関係が異なります。

高額療養費を計算する →

間違えやすいポイント

制度を実際に使うときに誤解されやすい点を整理します。

誤解① 業務中のケガでも健康保険証を使えばいい
正しくは:業務中・通勤途中のケガ・病気には労災保険が優先されます。健康保険証を使って受診した場合は、後から労災に切り替える手続きが必要になります。
誤解② 一度復職すると1年6か月を使い切りになる
正しくは:傷病手当金の支給期間は「通算」1年6か月です(2022年1月改正)。復職して給付が止まっている間はカウントされないため、再び就労不能になれば残りの期間で再受給できます。
誤解③ 欠勤さえしていれば待期3日間は自動でカウントされる
正しくは:傷病手当金の待期には「連続した3日間」就労不能であることが必要です。途中で出勤した日があると連続性が途切れ、待期はリセットされます。
誤解④ 労災と傷病手当金を両方申請して多くもらえる
正しくは:同一の事由について、労災保険と傷病手当金(健康保険)を同時に受け取ることはできません。業務上・通勤途中のケガ・病気は労災が優先されます。

よくある質問

Q. 傷病手当金と労災の休業補償給付は何が違いますか?
A. 最大の違いは「どのような病気・ケガが対象か」です。傷病手当金(健康保険)は業務外(仕事外)の病気やケガが対象です。業務中や通勤途中のケガには使えません。労災の休業補償給付(労災保険)は業務上の負傷・疾病または通勤途中の負傷・疾病が対象です。給付率も異なり、傷病手当金は標準報酬日額の2/3、労災は給付基礎日額の60%(休業補償給付)に加えて20%(休業特別支給金)が上乗せされ、合計で約80%相当を受け取れます。申請先も傷病手当金は健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)、労災は所轄の労働基準監督署です。
Q. 同じケガで傷病手当金と労災給付の両方をもらえますか?
A. いいえ、同一の事由(同じケガや病気)で両方を同時に受け取ることはできません。業務中または通勤途中のケガ・病気は労災保険が優先されます。労災の適用がある場合は、同一事由について健康保険(傷病手当金を含む)の給付は使えません。誤って健康保険を使って受診した場合は、後から労災に切り替える手続きが必要です。どちらが適用になるか不明な場合は、勤務先または所轄の労働基準監督署に早めに相談することをお勧めします。
Q. 何日休んだら給付の対象になりますか?
A. どちらも3日間の待期(受給できない期間)があり、4日目から給付が始まります。傷病手当金は連続して3日間就労不能の状態にあることが必要です(有給休暇・公休日も待期に含まれます)。労災の休業(補償)給付も、療養のため3日間就労不能の状態が続いた後、4日目から支給されます。業務災害の待期3日間は事業主が労働基準法に基づき平均賃金の60%相当を補償します(通勤災害の待期中は事業主補償義務なし)。
Q. 退職後も給付を受け続けられますか?
A. 傷病手当金については、①退職日時点で健康保険の被保険者期間が継続1年以上、②退職日時点で傷病手当金を受給中または受給できる状態(就労不能)、③退職後に就労していない、の要件をすべて満たせば、退職後も「資格喪失後の継続給付」として受給を続けることができます(支給開始日から通算1年6ヶ月の範囲内)。一方、労災の休業(補償)給付は在職の要件がないため、退職後も業務上または通勤途中の傷病により就労不能の状態が続く限り、要件を満たしている間は受給を継続できます。

出典・参照情報

本記事は以下の公式情報をもとに作成しています。法改正により制度内容が変わる場合があります。最新情報は各機関の公式ページでご確認ください。

  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで休んだとき(傷病手当金)」
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「退職後の継続給付(病気やケガで休んでいた方へ)」
  • 厚生労働省「傷病手当金について」
  • 厚生労働省「労災保険給付の概要」
  • 厚生労働省「業務災害・通勤災害の認定」
  • 厚生労働省「労災保険 休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」
  • 健康保険法(大正11年法律第70号)・労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)

免責事項

本記事は各制度の一般的な概要を説明することを目的とした参考情報です。個別の支給可否・支給額・給付期間を保証するものではありません。実際の支給は、加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)または所轄の労働基準監督署の審査により決定されます。最終的な確認は公式窓口でお願いします。制度は法改正により変更されることがあります。